ジュリアン有生の「徒然なるページ」

4月8日

 

第21回 アルバイト体験記 (変質者出現編)

 

ジュリアンは、大学生の頃、塾の先生のアルバイトをしていた。中学生を対象とした国語の先生だ。週に2回6時から9時迄のバイトだった。

 ある日、授業が終わり、塾の入っているビルを出て駅へ向かうと、前から変質者らしき男性がフラフラと歩いてきた。らしき、ではなく明らかに変質者という感じの男だった。その男を遠巻きにしてすれ違おうと、右の方へさりげなく寄って行くと、その男もフラフラと同じ方へ寄って来る。左の方へさり気なくかわそうとすると、またも同じ方へ寄って来る。男とジュリアンの距離が段々近づいてきた。「どうしよう・・・。怖い・・・」と思っていたら、後ろから声がした。「先生、こっちこっち」

振り向くと、中一の男子学生二人が自転車に乗って立っていた。男との距離が2メートルくらいのところで、ジュリアンはその子達の方へ走り寄った。二人は自転車をゆっくりとこぎながら、ジュリアンの両脇を固めてくれた。ジュリアンは、早足でその子達にはさまれながら歩いた。小さな声で1人が言った。「先生、向こうに一つだけの改札があんねん。あっちから電車に乗り」と。途中信号のある交差点に来た。恐る恐る後ろを振り向いた。変質者らしき男はもういなかった。「ありがとう。もう大丈夫みたい。遅いから、もうあなた達は帰った方がいいわ」と先生チックに言うと「もうすぐやもん」と言いながら、改札までジュリアンに連れ添ってくれた。改札に着いて「ありがとう・・・」と言うと「ええから、はよ改札の中入りーや」と言う。「ありがとう」二人の男子生徒にもう一度言い、ジュリアンは小走りに改札を入った。

 22歳の大人だったジュリアンと、13歳の子供達だったが、もうすでに、彼らは立派な紳士だった。1年後、就職のため、そこの塾のアルバイトをやめる事になり、彼らの受験の面倒は見てあげられなかった。が、最後の授業が終わったとき、その二人に「ありがとう・・あの時は・・・」とだけ言ったら、二人はジュリアンとのお別れに、両目にいっぱいの涙を浮かべてくれた。とってもとっても、声にならないような小さな声で「うん」とだけ言った。

 あれから、どこの高校へ進学して、その後はどうなったのか等、まったくわからないが、いついつまでも、彼らの綺麗な心と、男らしさを失わないで、世の中のどんな汚い事にもめげずに、立派な大人に成長していてくれている事を、ジュリアンは心から願っている。

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