ジュリアン有生の『徒然なるページ』

5月3日

 

第27回 アルバイト体験記(美人競争?編)

 

ジュリアンは、これまで沢山のアルバイトを経験してきた。その中で、とある一流ホテルのウェイトレスをしていた事があった。

 ある日、そこのメンバーで飲み会があった。ジュリアンも出席した。その時、そのメンバーの中に、めずらしく(?)ジュリアンの事を美人だと思ってくれていた人がいて、たまたまその人がジュリアンの隣の席になった。

わいわいと皆で楽しくお酒を飲み、盛り上がってきたところで、その人が言った。

「なぁなぁ、俺さぁ、前から思ってたんだけど、お前ってホントに美人だよな。おまえってさぁ、自分の顔に欠点ないと思ってるやろ?俺、自分がその顔やったらそう思うわ」等と言い出した。

「そんな事ないですよ!嫌なとこいっぱいありますよ」とジュリアンが言ったとたん、遠くの席に座っていた一番偉いマネージャーが大声で言った。

「そうや!お前より、ワシの嫁ハンの方がずっと美人や。どうや、今度家族も含めて4階の宴会場で社員パーティーがあるから、お前アルバイトやけど、そこへ来い。ワシの嫁ハンと勝負しよう!嫁ハンとお前と二人で舞台で並べ!」

皆静まり返ってしまった。なのにそのマネージャーのおっさんは続けて

「絶対来いよ!二人を舞台に上げて決着つけたるからなぁ」等と言い出した。

その後、その飲み会は静まり返ったままで誰もしゃべらず、誰も何も口にしなくなってしまった。

サブマネージャーが「今日はこの辺でお開きにしよか〜」と言い、変なムードでその飲み会は終わってしまった。ジュリアンは、ひどく傷ついた。翌日、アルバイトに行くとキャプテンが小さな声でジュリアンに囁いた。「あ〜ゆ〜おっさんの末路は哀れだよ。気にすんなや!」

さて、社員パーティーの日がやってきた。ジュリアンは宴会場には行かず、普通に勤務していた。すると同僚の人が、「マネージャーの奥さん来てるよ。ちょっと見に行ってみない?」と言って来た。ジュリアンは好奇心から4階へ行き、宴会場の裏口からそっと覗いた。すると、他の社員の奥様方は皆、挨拶をしあったり、歓談しているのに、そのマネージャーの「嫁ハン」だけは屋台の裏に隠れるようにして子供さん2人とひっそりといた。その「嫁ハン」が美人かどうかは別として、他の社員の奥様方とは馴染めずにいるんだな、とは思った。おそらく大人の世界は色々あるのだろう、と思った。

 時は過ぎ、それから10年の歳月が流れた頃、ジュリアンはある病院へ知人のお見舞いに行った。知人はあいにく検査中との事で、コーヒーでも飲んで改めて病室へ行こうと思い病院内の食堂へ行った。

 驚いた事に、そこにあの男がいた。白髪交じりになってはいたが、間違いなくあの美人競争騒動のマネージャーだった。ジュリアンは、入り口でウインドウを見る振りをして、少しの間様子を見ていた。間違いなくあのマネージャーで、間違いなくそこのウェイターだった。

「あ〜ゆ〜おっさんの末路は哀れだよ」その言葉を思い出した。

どこでどうなって、こうなってしまったのか分からないが、ジュリアンは「いい気味だ」とは思わなかった。恐かった。人の上に立てるよう、人間としての磨きをかける事をせずに月日を重ねた人間の末路を見たようで、その食堂へは入っていけなかった。

ことわっておくが、ジュリアンは食堂のウェイターがいけないといっているのではなく、社会的地位の変化を言っているのだ。

あれから更に5年が過ぎた。あの男がその後どうなっているのか等知るのも恐い気がする。


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